武蔵野の草原に立つ

アイドルのライブへ行く趣味について徒然に。

「行けないけど頑張って」

今日は推しが出演するイベントがありました。…でも、大学関係者から頼まれたアルバイトがあったので、行けませんでした。とはいえ、出勤を強要されたわけではありません。完全に自分が、「推しのイベントより、アルバイトに行こう」と選択しました。正確には、「行きませんでした」です。

朝から忙しいアルバイトでしたので、昨日寝る前に推しに「明日は頑張ってください、成功を祈っています」というリプを送りました。しかし私のその時の本心をそのまま打つならば、「行けないけど頑張って」だと思います。

「行けないけど頑張って」あるいは「行けないけど応援しています」は、アイドル、声優、俳優などのオタク間で「本当にそんなことを伝えてよいものだろうか」と討議が交わされてきたテーマです。「そんなことを言わないでほしい」と明言された著名人の方もいらっしゃいます。

私個人としては、これは特別な場合を除いて言うべきではない、と思います。

特別な場合とは、チケットが非常に取りにくい舞台や抽選式のイベントです。1000人しか呼べないイベントに1万人が応募するといった状況は、ジャニーズ関連などの有名な業界ではよくあることでしょう。こうしたイベントの場合、パフォーマーの方はそのイベントでは1000人のファンしか見ることができません。しかし、その上でたくさんの「行けないけど、私だって行きたかったのだ」というリプを貰えば、自分を見たいと思ってくれる人はもっとたくさんいるのだ、と思うことができます。そのリプによって彼らは、2000人、3000人にもなるファンがいるのだと思えるのだと思います。また、この場合は、抽選に外れてしまったから、チケットが売り切れてしまったから、という不可抗力による不参加なのです。どう足掻いてもチケットが手に入らないのでしたら、もう諦めるしかありません。(ここで転売に手を出すのはファンとして疑問を抱かれる行為だと思います)

しかし、このようなファンが殺到するイベントは、本当に一握りのパフォーマーにしか与えられません。地下アイドルの世界などでは、このようなことはほぼ起こらないと言えます。そのような場合、「行けない」というのは、「どうしても、どうしてもあなたのイベントを見たい…というわけではない」という解釈をされても仕方がないと思います。

もちろん、ファンには人それぞれ事情があります。地方に住んでらっしゃる方が通うのは本当に大変なことでしょうし、仕事、体調、家庭環境、さまざまな障壁があります。事実私も、アルバイトをしている学生ですからとてもではありませんが多額のお金は払えません。また、何よりも推し優先!というほど、人生を推しに捧げているわけではありません。だからこそ今日も、アルバイトを選んだのです。

ですが、推しはファン一人ひとりの事情なんか分かりません。「ああ、この子は確かこの時期仕事が忙しくなるんだったな、それに最近親の介護も大変になってきたって言ってたな、そりゃ来られなくても仕方ないさ」なんて思うでしょうか?それができるのは、相当距離の近いアイドルだけでしょう。それに、どれだけ自分を詳しく認知してくれるアイドルだとしても、相手はお友達ではありません。自分が全通できない理由を言って、しかもそれを覚えてもらおうなんて、アイドルにアイドル以上の仕事を要求しているのと同じです。私の推しはファンと相当距離が近いタイプのアイドルですが、それでも私は「今日のアルバイト、割と抜けられないやつで…」なんて言いません。アイドルには、「ファン一人ひとりの事情を把握しましょう」なんて決まり事はないはずです。

また、「行けない」というのは、別に推しが知らなくてもいい情報です。これが結婚式や同窓会のお誘いでしたら、「行ける」もしくは「行けない」ということをしっかり答えなくてはいけません。「行けないけど、今度お祝い送るね」とか、「行けないけど、写真見られるの楽しみにしてる」といった応答もありえるでしょう。しかしこれは、あくまで正式に「招待」されたからこその返答です。推しから直接「来られない?」と聞かれたわけでもないのに、「私その日は行けなくて~」とわざわざ断りを入れるのは、見当違いではないでしょうか。

ですが、このようなリプを送る、あるいは私のように本心で思ってしまう、というのは、心のどこかで「推しは私を招待してくれている」と思ってしまっているからだと思います。もちろん推しは、不特定多数に向けて「この日来てね!」と告知をします。しかし、特に推しと距離が近く、認知もされている私などは、心のどこかに「私が行かないことに推しは気づくんだろうな」「私が行かないことで、推しはがっかりしないかな」という気持ちが、1パーセントでもあるのは事実です。招待してくれている、というより、推しは私が来るのを待っているんじゃないか…そう考えるのは、実に楽しいものですから。

しかし、そう信じてしまうと、推しに失礼なリプを送るだけではなく、「私のこと待っていてくれてるんでしょ?でも行けなくってごっめーん!」という、上から目線のファンになりかねません。だらかこそ私は今日も、「別に私が行かなくたって推しは気にしないものだ」と自分に言い聞かせています。別に苦ではありません。私なんかがいないだけで推しががっかりして、パフォーマンスの質でも下がっていたら、そちらの方がずっと嫌です。

また、これが推しとファンという関係ではなくても、やはり「行けない」という報告は相手をがっかりさせてしまうものだと思います。卑近な例ですが、ピアノの発表会に出るとなってお友達を招待したときなど、「ごめん、行けない」と言われれば、仕方のないこととはいえ非常にがっかりしたのを覚えています。こんなに頑張っているのに見てくれないの?あんなに時間をかけて、あんなに苦労をして弱点を克服して、こんなに綺麗なドレスも着るのに…子供の習い事ですらこう思うのです。まして推しのライブ、イベントは、推しが職業という誇りを持ってしていることです。人生をかけていると言ってもいいでしょう。推しが、それこそ命を削るようにして作り上げたものに対し、軽々しく「それ、見ないわ」と一蹴してしまうことは、推しを傷つけることになりかねません。

有名人なら「行けない」というファンもファンとして受け入れてやれ、ライブに来られるファンだけにお礼を言うのは心が狭い、という意見もありました。確かに、心の底からそう思えればそれに越したことはありません。しかし、一口に有名人といっても、皆さまそれぞれ違う方です。「行けないけど応援している」というメッセージを、「そうかそうか、でもこの人も大切なファンであることに変わりはない」と鷹揚に受け止められる方、「俺は応援だけじゃ食べていけないんだよ」とシビアな考えを持たれる方、そして、さあこれから頑張るぞと意気揚々としているさなかにそのような言葉を突き付けられ、一気に水を差されたような気分になり、「来ないのかよ…俺のライブの価値はアルバイト以下かよ…」と落ち込んでしまう方、さまざまな方がいらっしゃるでしょう。一番最初の、鷹揚な方がよくて、他は人間として駄目、なんてことはもちろんありません。人の発言をどう捉えるかなんて、誰かに強制されるものではありませんから。

ですから私は、推しが三番目の人間だと想定してファン活動をしようと思っています。「私だったらこう言われても気にしないな」ではなく、「ひょっとしたら、推しは気分を悪くするかもしれない」その可能性が少しでもあるなら、念には念を入れて、言わない方がいい。それは、「行けないけど~」というリプに限らず、推しに向ける言葉すべてに言えることだと思います。